無言電話が1日200回以上も!
 「奥さん、早く死んだら?」
 「誰なの、あなたは・・・?いい加減にしてよ!
 依頼人であるA夫人に会っている時に何度もかかってきた電話の内容である。A夫人から調査依頼の相談を受けたのは、前日の夜中だった。
 「若い女性の声で毎日200回以上かかってくるんです。探偵さん、お願いです。何とかしてください!」
そんな電話を受けた私は、どうせ旦那の浮気相手かA夫人を嫌っている誰かのいたずらだろうと思っていた。
 「8時30分に必ずかかってきますから、聞いてください。」
 

 翌朝8時20分。私はA夫人宅へ伺い、電話に盗聴器を取り付け、テープレコーダーを接続してイヤホンを耳に付けた。”プルルル・・・”。8時30分ジャストに電話がかかってきた。
 「あなた、まだ生きているの?早く死ねば?」
 「なぜ私が死ななきゃいけないの?一体誰なの?」
 ”ガチャッ!”電話は切れた。その後は出ると切れる無言電話が、延々9時まで続いた。30分の間に20回ものコールだった。


 A夫人によると、いたずら電話は2年半前からだという。
 「最初のころは、1日2・3回程度の無言電話でした。2・3ヶ月 すると1日に50回も。どんどんエスカレートして・・・」
 「電話番号を変えてみてはいかがですか?」
 「ええ、一度変えたのですが、一週間もしないうちに『そんなことをしても無駄よ』と。後はいつもと同じパターンで・・・。そのころから『死ね』という言葉が出るようになったんです。」
 「ご主人は知っているんですか?」
 「ええ、もちろん。警察へもお願いしたのですが、結論が出ないので探偵さんに調べていただこう、ということに・・・」


 まず私は、名古屋市内にあるご主人は会社に行き、同じ課のある女子社員に話を聞いてみることにした。
 「Aさんのことで・・・」と切り出すと、いきなり困惑した様子で答えが返ってきた。
 「困っているの。勤務時間中、変な電話がかかってくるんです。『Aさんと付き合っているんでしょ。別れないと殺すわよ!』、もう薄気味悪くて・・・」
他の女子社員3,4人に会ってみたが、まったく同じような話を聞かされた。
その後事務所に戻ると、ちょうどA夫人から電話が。
「子供の誕生日に針が数本刺さったハンカチが贈られてきたんです。あの女に間違いありません!」


モテそうなタイプの夫が気になる。
 A氏という男、社内では"まじめ人間”という評判だが、スリムでいかにもモテそうなタイプである。私はどうもこのへんが気になって仕方がない。とにかくA氏の身辺を徹底的に洗ってみることにした。まず1週間A氏を尾行したが、まさに”まじめ人間”そのもの。これといったハプニングは起きなかった。
 次の手法として、交友関係の聞き込みを開始することに。すると、ひょんなことから”A氏に好意を持っているのでは?”という女性がいることを突き止めた。胸をおどらせながらこの女性を調査するも、見事に空振り。


 振り出しに戻った私は、再びA氏の会社へ行き、今度は別の課の女子社員に聞いてみることにした。ちょうど炊事場でお茶をいれている女性に声を掛けてみる。
「恐縮ですが、○○課のAさんのことでお話が・・・」
「ええ、いいですよ。」と彼女ーB子は快く返事をしてくれた。
A氏の話をする彼女は声も弾みがちで、実に楽しそう。だが、それ以上に”目が笑っている”ような気がした。『今まで聞き込みした女性とは雰囲気がどこか違っている.』ーープロの直感である。
彼女は否定しているが、何かA氏と関わりがあるような気がしてならなかった。


ついに犯人を発見!
 私は自分の直感を信じ、彼女の自宅の電話を盗聴することに。車を近くに停めて、イヤホンを耳に当てて待機した。
 夜8時30分、B子が帰宅。30分ほど経過したとき、彼女は電話機を取り、ダイヤルし始めた。電話機の向こうで「もしもし・・・」と声が聞こえる。
『あっ!この声はA夫人に間違いない!』
 B子は何も喋らず、電話を切った。この繰り返しが深夜2時まで続いたのだ。


 翌日、あるルートを通じてB子の過去の電話記録を調べたところ、彼女の犯行に間違いなかった。その夜、私は彼女の部屋を訪ねた。
 「あなただったのですね・・・、嫌がらせ電話の犯人は!」
「何のことですか?警察を呼びますよ!」彼女の唇は震えていた。
「どうぞ呼んでください。困るのはあなただと思いますよ。証拠は全部挙がっているんだから。!」脅しをかけると、彼女は泣き崩れてしまった。


 B子は高校卒業後、現在の会社に入社して11年。仕事ぶりはまじめだが、性格は内向的で、異性関係はまったくと言っていいほどない地味なタイプである。
 彼女の自供によると、A氏にずっとあこがれていたという。3年前、会社の階段で転んだ時、ちょうど通りかかったA氏が抱きかかえて医務室まで運んでくれた。その時、「Aさんも私のことを・・・」と思い込んだらしい。それからA氏が自分に声を掛けてくれないのは、恥ずかしがっているのだと考え、いずれ自分と結婚するのだと勝手に決めていた。
 その結果、A氏の奥さん、子供、会社の女子社員など、A氏に声を掛けるすべての人物を敵と見なし、嫌がらせを続けた。思い込みが心を支配し、犯行に及んだのだろう。ゆがんだ愛情がもたらした、何とも後味の悪い事件であった。
 

 数ヶ月後、この事件は新聞に報道された・・・。
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