他社で断られた人捜
 旅館の裏手には、澄みきった清流の流れが一定のハーモニーをかもし出していた。岐阜県郡上郡八幡町は『水のまち』として長良川の上流に位置し、毎年夏になると『郡上踊り』で、全国から観光客でにぎわう街である。7月半ばから9月初旬まで、八幡町の吉田川沿いの各町で盆踊りが開催され、8月の盆には3日間徹夜で踊り明かすのが恒例だ。
 

 私がA子さんから人捜しの依頼を電話で受けたのは、郡上踊りが終わった9月半ばだった。
 「あの・・・笑わないで話を聞いていただけますか?」
 「もちろんですよ。」
 「実はある男の人を捜したくて。ほかの探偵社や興信所にも行ったのですが、4件すべてに無理だと断られてしまったんです。麻生さんでも無理でしょうか?」
 「とにかく一度お会いして、お話をお聞きいたしましょう。」
 彼女は2時間後に1枚の写真を持って来社した。


手掛かりは写真1枚!
 A子さんは27歳。彼女は毎年、母親と一緒に郡上踊りに参加している。彼女が心ひかれた男性は、仲間たち数人と踊りに来ていたという。仲間とそろいの着物で、正統な踊り方でなく、若者らしいパワフルにアレンジした踊り方が彼女の目に焼き付き、忘れられなくなったようだ。
  7,8月の間、合計3度彼を見たのだが、告白する勇気がなくて踊る姿だけを眺めていた。最後に会ったとき、遠巻きながらにようやくカメラのシャッターを切ることができたらしい。彼女が大事に持ってきたのは、その写真だった。
 「この人ですか?」私は写真に一番大きく写った男性を指差した。
 「いいえ、奥に写っている横顔の男性です。」
 「えっ、この人ですか?」
 15人の男子が写っていたが、"彼”は踊りの輪の一番奥で、しかも横顔だけ。私は一瞬、これは無理かな、と思った。

 郡上踊りは、全国から70〜100万もの人が集まる。にも関わらず、小さな横顔の写真以外、何も手掛かりないのだ。思わずふぅ、とため息をつくと、彼女がすがるような目をして聞いてきた。
 「無理でしょうか?」
 「いや、大丈夫ですよ。恋のキューピット役は私も燃えますから!」
 ・・・ほかの探偵社が捜せないなら、何が何でも探し出してやろうじゃないか!

 依頼人から着手金を受け取ると、私は郡上八幡に向かった。徹底的な聞き込み、まずはそれからだ。
 旅館、ホテル、商工会、郡上踊りの保存会、商店街、旅行会社、飲食店などを片っ端から聞き込みに回ったが、有力な手掛かりはなかった。実は写真に写っていた15人中10人までは所在を突き止めたのだが、”彼”は誰も知らないとのことだった。
 
 その後も粘り強く聞き込みを続けて、似た人物がいるという情報が6件入った。金沢、名古屋、犬山、美濃市など、情報はバラバラであったが、私はすべて当ってみようと思った。
 そして調査を開始して5日目、美濃加茂市から毎年踊りに来ているグループのひとりに似ているとの情報が入り、私は早速現地に飛んだ。


何と”彼”を発見!
 翌日、"彼”の友人らしき人物をキャッチ。そして、ついに”彼”本人を確認。私は心の中で『やった〜』と叫んでいた。
 M君、29歳独身。父親と小さな会社を経営していた。近所の評判はすこぶる良い。私は早速レポートを作成し、A子さんに連絡を取った。
 「本当ですか?無理なのかと思っていました。ありがとうございました・・・」
 彼女は電話の向こうでうれし泣きしているようだった。

 翌日レポートを渡し、成功報酬を受け取った時、私たちはこんな会話を交わした。
 「実は今、結婚してほしいと言われている男性がいるんです。8年くらい友達付き合いしている人で・・・結婚してもいいかな、考えたこともあるんですが、何かふっきれないものがあって・・・」
 そんな時、郡上八幡でMさんに出会って。話したことはないけど、一目会ったときから運命的なものを感じていたんです。一緒になりたいとか、そんなことじゃなくて、とにかくもう一度会いたいって。その一心で写真も額に入れて机の上に置いていたんです。寝る前には『おやすみ』って言ったりして・・・。私っておかしいでしょうか・」
 「いや、そんなことはないよ。私は運命的な出来事って信じるから。ほとんどの人は、ある人に会いたいと思っても、まあいいかってあきらめてしまう。あなたは自分で決断して、道を切り開いたのだから後悔はないと思うよ。彼と交際できる、できないは別として、勇気を出して一度会っておいで」


 私は彼女に、彼と会うときの心構えや、話し方などをアドバイスしてから別れた。
 その後ふたりがどうなったか?それは読者のご想像に任せることにしよう。
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