思い詰めてた末の決断
 「自分は他人にどう思われているのだろうか?」
こう考えたことは誰にでもあるはず。ほとんどの人は極力気にしないで生きていこうとする。しかし、中にはどうしても気になって仕方がない人もいるようで・・・。
 こういうタイプは特にサラリーマンに多いようだ。上司から少しでも冷たい言葉を掛けられると、出世できないのではと深く考え込んでしまう。そういった場合、興信所で自分の評判を確認する方法がある。


 今回の依頼も、サラリーマンであるS君本人の身辺調査だった。自分は上司を始め、同僚などからも嫌われているのでは、とひどく思い詰めた様子だった。
 「あなたの思い過ごしではないですか?」」
「そうだといいんですが。一度仕事でミスをしまして、かなりきつく注意されたことがあります。それ以来、何となく周りの視線が気になって・・・」私はまず、彼の同僚から当たってみることにした。
 「まじめすぎるくらいの男ですよ。それで上司と衝突したりして。でもあいつ、エリートコースの人間だから、精神的にひ弱なんだよね」同僚の話を総合すると、積極的に好かれているわけでもないが、これといって悪い評判はなく、嫌われている様子はなかった。


上司の冷たい反応
 さて、これからが問題の上司たちだ。まず、直属の係長を訪ねてみる。
 「あまり答えたくないですね」冷たい反応だった。何度聞いてもノーコメント。課長、部長にも聞いてみたが、みんな同じような反応だった。これはどうしたことだろう?
 一日置いて翌々日、改めて同僚に聞いてみると、先日とは打って変わって冷たい答えが返ってきた。この変わりようは一体? 係長に再度話を聞くと、今度は答えが返ってきた。
「Sのことですが、社内ではあまり評判が良くないんです。彼は名門出のエリートで、将来を嘱望されていたんですが、精神面でのもろさがありまして。仕事ができるといえばできるのですが、結局は総合力ですからね」
 快く話をしてくれたわりには、あまりにもきびしい内容だった。
 彼はそれほどまでに嫌われているのだろうか? 課長や部長にも話を聞くことができたのだが、やはり同様の評価であった。

 私は本人に伝えるのは気が重かった。しかしこれも仕事。聞いた内容を正直に報告するしかない。「どうでした? 僕の評判は」
 S君は、提出した報告書を急いで広げ、顔を上気させながら読み始めた。そして読むにつれ、顔が徐々に青ざめていくのがよくわかった。
 「他人の評価なんて日に日に変わるものですよ。あまり気を落とさずにがんばってください」
「ありがとうございます。でも、いいんです。僕の正直な評価が知りたかっただけですから」
彼が意外に明るい表情で帰っていったので、私は少し安心した。こういった調査の報告でショックを受け、自殺する人もいたらしい。実はそれを一番心配していたのだ。


意外な結末
 それからしばらくして、S君から連絡があった。
「ありがとうございました。おかげで精神的に少し強くなったように思います」
「社内での評判はどうですか?」
「実は、あなたの調査をヘッドハンティングだと思ったらしいんですよ。それで上司が部下や私の同僚に“かん口令”を敷いたみたいで、証言はすべてうそだったみたいです」
「えっ? ・・・なるほど、だから初めと2回目ではみんなの態度が違っていたんですね」
「自分の身辺調査のおかげで、今までの弱かった自分を捨てることができ、仕事にもやる気が出てきました。あの報告書のすべて逆が、僕の本当の評価と思えばいいんですから」

 あらぬ心配をした私だったが、結果良ければすべて良しである。
それにしても、世の中何がきっかけで人生が変わるかわからないものだ。
Copyrights(c)2003-2004 ASO JOSEI TANTEISHA All rights reserved