第8話 探偵物語「顔(後編)」

 ついに私も幽霊を目撃!

 そもそも依頼人が真相究明を依頼してきたのは、窓ガラスに謎の少女の顔が何度も映ったから。 それを馬鹿げている、と依頼を断ってきたはずのご主人が、自分も窓に映る少女の顔を見たと言い出したのだ。 「今回は本物かもしれない・・・」 そんな予感がした。
 翌日、すぐご主人の会社を訪れて、事情を詳しく聞いた。 依頼人宅は名古屋市内の中古住宅の1階で、問題の窓は3DKの間取りのリビングにあった。9月に入ってから週1回のペースで、少女の顔がはっきりと窓ガラスに映るという。 
いたずらの可能性もあると考え、私はスタッフ2名をその窓が見える場所に、赤外線カメラやビデオを持たせて配置し待機させた。私自身は依頼人夫婦と共に、部屋の中で様々な機材を配置し待機していた。
 
 あっという間に4日が過ぎて、内心「本当に現れるのかなぁ・・・」を疑問が湧いてきた5日目のこと。私は問題の窓を背に、テーブルを挟んで依頼人夫婦と向き合い座っていた。そして夜12時30分過ぎ。奥様の視線が窓の方に移り、その目が大きく見開かれた。その瞬間私の背筋は凍りついた。明らかに背後で何かを感じる。しかし、なかなか振り向けない。勇気を振り絞り、必死の思いで振り向いてみた。
 窓ガラスには、悲しそうな少女の顔がはっきりと映し出されていた! 「出た・・・!」と言ってはみたものの、声にならない。思わず生つばをゴクンと飲み込んだ。無線で外のスタッフに「出たぞ! 誰かいるか?」と聞いた。外からの返事は「誰もいません!」 「よく探せ! カメラは大丈夫か?」 「大丈夫です!」
 私は、窓ガラスに映った少女の顔を見ながら、必死でマイクを握っていた。その少女は、どう見ても首から上しか映っていない。窓の高さから計算すると、顔の高さは2.5メートル以上あるはずだ。とても人が立っているとは考えられない。 
「・・・やっぱり幽霊か・・・」 時間的には、ほんの5、6秒だったのかもしれない。しかし、自分には30秒以上もあったように感じられた。不思議なことに私には、その少女が、ふっと私に微笑んだ気がした。やがて静かに消えてしまったが、私は少女がいた窓から視線を外すことができなかった。
 もう一度外のスタッフに連絡を取った。 「誰かいたか?」 「いません」 「すぐに撮影したカメラとビデオを持って来い」 私達と依頼人夫婦が見守る中、外部と内部から撮影したビデオを再生してみると、顔など映っていなかった。私達は絶句した・・・。

幽霊の意外な正体
 翌日から私は、この部屋に住んでいた前の住人について聞き込み調査を開始した。 依頼人夫婦は、この住宅に引っ越してきて、まだ半年あまり。どう考えても、霊が出るような心当たりは無いという。
 前の住人を割り出し、状況を説明した。その家族は、1年半ほど住んで引っ越したという。理由を聞いてみると、この住宅に引っ越して来てから、なぜか奥さんがノイローゼになってしまい、気分転換のために引っ越したとのこと。調べてみると、その前の住人も、更にその前の住人も、みんな2年以内にこの住宅から引っ越していったことが分かった。
 4代前の住人・内藤さん(仮名)に聞き込みした時のことである。内藤さんの奥さんに事情を話したところ、「まさかとは思いますが・・・」と言って、玄関の奥の部屋から数枚の写真を持って来た。その瞬間、私は全身が凍りついて動けなくなった。間違いない! あの窓に映った少女の顔だ! 写真の顔は、あの夜最後に私に微笑んだ表情と、全く同じだったのだ・・・。 「実は私の娘なんです・・・」 
 内藤さんの奥さんから、娘さんの事情を聞いた。娘さんは、高校1年生の時、好きな男性がいた。交際しているうちに、彼の子供を身ごもった。勇気を出して、やっとの思いで両親に打ち明け、子供を産みたいと懇願したが、両親は大反対したそうだ。娘さんはそのことに悲観して、思い余った末、両親の留守中に睡眠薬を飲み、ガス自殺を図ってしまった。両親は「娘を許してやればよかった」と、未だに後悔しているという。

 少女の顔が窓に映ったということが、この事件によるものかどうか、事実はわからない。私は、少女の母親(内藤さん)と依頼人夫婦に、霊を鎮めるため祈祷してもらうことを提案。そして私の知り合いの祈祷師を紹介し、調査を終えた。それ以後、少女の顔が現れることはなくなったそうだ。

 信じたくはないが、私自身が目撃した以上、認めざるを得ない。30年も探偵稼業をやっていると、理屈に合わない事件がたくさんある。世の中、何があっても不思議ではない。私はいつもそう思っている。

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